007慰めの報酬

新しい試みと伝統との狭間での007シリーズ
*キャスト&スタッフ

監督:マーク・フォースター
制作:マイケル・G・ウィルソン
脚本:ポール・ハギス
音楽:デヴィッド・アーノルド
出演:ダニエル・クレイグジェームス・ボンド)、オルガ・キュレリンコ(カミーユ)、ジュディ・デンチ(M)
2008年イギリス・アメリカ共同制作映画

*ストーリー**************
前作「007/カジノ・ロワイヤル」の続編として二作品で一つ、というコンセプトで作られた作品。前作で任務完了後にパートナーでもあった運命の女性ヴェスパーの裏切りが発覚し彼女が罪の意識から死を選び、愛し合っていたボンドは一人残されながらも任務続行。彼女を操っていたミスター・ホワイトの所在をつきとめ、身柄を確保する所から今作品はスタート。ミスター・ホワイトを追う内にボンドは彼らの大元の組織の企む「ティエラ計画」という巨大な陰謀を知ることとなる。「ティエラ計画」は天然資源の完全支配を目論んだ計画でその組織の幹部、ドミニク・グリーンを追うボンド。そのグリーンの取引相手に家族を殺され、復習に燃えるカミーユがボンドと行動を共にするが…
************************

6代目ジェームス・ボンドとして初めてブルー・アイズ(青い目)のダニエル・クレイグが大抜擢され、映画制作としては大成功を収めてから今作が二作目。監督はマーティン・キャンベルからマーク・フォースターに変わり、さらに今回は原作がない。脚本は「ミリオンダラー・ベイビー」などで有名なポール・ハギスが担当。
この原作がないことについては後で述べるとして、6代目ジェームス・ボンドダニエル・クレイグのデビュー作、「007カジノ・ロワイヤル」はエポックメイキングな作品であり、新生ボンドはかつてのボンドファンをずいぶん失い、そして新たなジェネレーションのファンをその何倍も獲得した。しかしながら新しい企画には常にこういう事は起こるわけで、時代の自然淘汰が行われる、という事とも言えよう。初代のショーン・コネリーの流れを踏襲していない容姿、つまり、ブロンドで青い目の俳優を起用するからには、相当色々な物を改革的に新しくしてしまわねばならないミッションがあったわけで、実際、今までのスマートでゴージャスなジェームス・ボンド、という設定を白紙に戻してヒューマンで荒削りなボンドとして登場させた。
原作は第一作目だったこともあり、ボンドデビューのストーリーだからその状況もうまく働いて、結果、このやり方が見事に時代の流れとマッチしたと言える。が、しかし往年のファンは映画の歴史を一緒に背負ってきただけにやりきれない気持ちもある。ボンドが大好きなファンにとっては主役や脚本が気にくわないからと言ってジェームス・ボンドシリーズを嫌いになるのも悲しく、自分のコレクションからそれだけを外す、というのもコレクター的に悔しいわけである。シリーズ物にはシリーズ物の掟、というのがあるわけで、それが他の作品でも良いような匂いになるとその作品の魅力は激減してしまうし、ひどい場合はその魅力が無くなってしまう…今回の作品はその瀬戸際にある、と解釈した。わかりやすく言えば、遠山の金さんでお白州の場面で上映45分で桜吹雪がでなかったらどうだろう…例が極端だけれど、そういう事が長寿作品、シリーズ作品には非常に大切な事なのだから。最初に述べた事に戻るけれど、今回は原作がない。脚本の力で仕上がってきている作品だから自由さもとてもある替わりに危険もある。ポール・ハギスの脚本には定評があるからそれは質がどうこうではないだろうが、さらに監督がヒューマン系のそれもアクション初めてのマーク・フォースターに変わっている。もちろん、アクション系監督を同時に従えての撮影だった。しかしこれらが今回の作品を曖昧なアクション物にしてしまった感がある。前作とつがいの、という設定のために冒頭での「ガンバレル・シークエンス※」がない!(もちろん本作最後にそれは登場してバランスが取れると制作側は言っているが)ダイ・ハードでも良かったんじゃない?とか、そんな意地悪な見方もできる。
となってくると007としてのシリーズとして作り上げていく意味があったのだろうか…という展開になるわけである。作品自体は非常に面白いと思うし、007だと思わなければエンターテイメントとしてもゴージャスだと思う。
第一作目はどんなに改革的に撮影しようと原作に忠実だったわけで、007シリーズの作者の意図する真髄がやはり息づいていた。それが新生ボンド、ダニエルが大成功した理由なのだろうが、今回はそういう色々な状況がすべて曖昧になってしまった作品と言えるかもしれない。
しかしながら制作側は、この人間的なジェームス・ボンドが、この二作を経てようやく007として成長してきたわけで、次回からはオープニングから象徴的な「ガンバレル・シークエンス」が見られるかもしれない、と言っている。「この2作のボンドは本当のボンドではないんだ…」とファンに訴えているようにも思える発言だが…

熱烈な007シリーズファンでなければ十分楽しめる作品。ダニエル・クレイグは前回よりも筋肉が少し落ちて不自然さが消えている。相変わらずよく走り、よく飛び、いろいろと魅せてくれるし、他の俳優陣の作品に掛ける意欲もとてもよく伝わってくる。実際撮影中にダニエルは骨折もしているくらい、生傷が絶えないほどで熱演している。昨年にダニエル・クレイグがこの二作でボンド役を降りたい、と漏らした事は記憶に新しく、その時私はとても嬉しく思った。ダニエルのようなシリアスな演技が魅力的な俳優が、こういったラッキーチャンスだけに惑わされることなく、自分の役幅を広げる気持ちに忠実である、という事を知って嬉しかったから。ただどちらにせよ今後、この007シリーズがどうなって行くのか、というのは非常に注目していたいのは確か。もちろん新生ボンドのままダニエルが続投を続けたとしても、そういう精神を持っているダニエルが演じるのなら、それは非常に楽しいと思う。
それと、この作品は前作「007カジノロワイヤル」を見てからでないとストーリーがわからなくなる事があるのでできれば事前に見ておく事をオススメする。

このように書いてきて、やはりもう一度観たくなるのはダニエルの魅力?それともあの007の音楽が誘うスクリーンの魅力?というそんな魅力を持った作品。


※「ガンバレル・シークエンス」とは、007シリーズの冒頭で登場する中のライフリングの輪の中にボンドが現れて正面に向かって一発撃つ、シリーズの顔とも言えるオープニングのこと。

007慰めの報酬公式サイト