エレジー

若い世代ばかりではないこれからの恋愛を考える作品
*キャスト&スタッフ

監督:イザベル・コイシェ
制作:トム・ローゼンバーグ、ゲイリー・ルチェッシ、アンドレ・ラマル
脚本:ニコラス・メイヤー

出演:ペネロペ・クルス(コンスエラ)、ベン・キングスレー(デヴィッド)、デニス・ホッパー(ジョージ)
2008年アメリカ映画

*ストーリー**************
離婚経験のある初老で独身の大学教授デヴィッドと30歳年下の学生コンスエラとの恋。一人の女性に束縛されずに自由に暮らしてきてテレビ出演などしているゴージャスな教授、デヴィッドが美しく賢く大人な学生コンスエラに少年のようにどんどん惹かれていく…コンスエラもまた年齢差も肉体的な事も気にならぬままデヴィッドを愛するようになる。コンスエラはこの二人の関係に非常に肯定的で、両親に紹介したがるが、デヴィッドは自分の環境を意識しすぎて気後れして勇気を失い、すべて誘いを断るようになる。そんな事が続いてとうとう、コンスエラから別れを告げられる…コンスエラを失ったデヴィッドはショックのあまりに大学での講義にも立てなくなる日々が続き、放心状態の中、ピューリッツァ賞受賞の詩人の親友ジョージの優しさに救われ、徐々に自分を取り戻していく。音信不通だったコンスエラから数年後、突然連絡が入り、再会。彼女の病気が深刻であることを知らされるとデヴィッドは後悔と悲しみとで泣きだして止まらない。ことここに来て初めてデヴィッドはこの恋に自分の年齢などの環境を意識することをやめ、手術を終えたコンスエラの許に駆けつけるが……
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世の中が高齢社会になってきている中で、今後こういう視点にたった作品の映画化は増えるのではないか、と最初から感じていた。イザベル・コイシェ監督の女性ならではの多くを描かないで二人の関係一点に集中したストーリー展開。初老の男と気丈で賢い若い女性の組み合わせは、その心理における駆け引きと、厳しさ、クールさ、が通常の恋愛とはやはりかけ離れてくる。親子ほども年が離れると、男性が圧倒的に遠慮がちになって若い女性に振り回されるようになる。そしていつ、自分が捨てられるかに怯えながらも強い嫉妬心がからみついてくる束縛から逃れられない。一種の麻薬的な作用をもたらすのが老いらくの恋…というストーリーの常識。
しかし、ここで登場するデヴィッドは普通の大学教授ではなくテレビ出演などをするかなり華やかなプレイボーイである。であるからして、その自分のプライドを保とうと必死になって余裕を見せようとしたりしている。が、気がつけばコンスエラの後をつけ、若い男関係の匂いがしないかを嗅ぎ周り、挙げ句の果てには彼女の家族に会うのがつらくて、信じられないようなでっち上げのウソをつき続けて逃げてしまう姑息な、気の弱い男なのである。それを自分で認めているのか認めたくないのか、コンスエラに捨てられても自分から電話すらできない…見ていてこちらが歯がゆくなってくるぐらい、デヴィッドは情けない男性である。浮き名を流していたあのゴージャズな日々はなんだったのだろう…しかし、これが年齢のもたらす心理なのだというのはイザベル・コイシェ監督が痛いほどよくわからせてくれる。
コンスエラは突然現れて、突然消える、かのようにここでは描かれており、デヴィッドから神秘的に見えるように設定されている感があるがとてもデヴィッドを愛していて、対等に人生を歩んでいきたいのは見てとれる。非常に物をよく見ている女性である。わがままを言うでなし、デヴィッドを束縛すらしない。その中で人知れずに彼女なりの葛藤もあり、彼のかたくななまでの、将来に対しての恐怖感を解けないことに傷つき続ける。そしてその感情も押し殺したりしているから、それがデヴィッドからは見えにくい。なので結局成就できないまま…その成就の起爆剤となるのが彼女の乳ガンの発見というのも皮肉だけれど、死を直前にしてしか、二人とも心をオープンにできない。これが人生というものなのかな、と考えさせられてしまう。
作品の前半はもったりと進んでいくのだけれどさすがに監督が描きたい、と心に感じた部分からのストーリー展開は濃密で非常に勢いが出てきて引き込まれる。作品の最後は、観ている人間に判断が委ねられるような終わり方である。貴方は肯定派?否定派?どちらだろうか。
作曲家として驚いたのは、この作品はオリジナルの曲がほとんどなくクラシック音楽その他をカット、ミックスして場面場面に流している。日本語のパンフレットその他にも作曲家のクレジットがない。費用の問題なのか、ポリシーの問題なのか、私個人としては場面場面に色々とクラシック以外のオリジナルな音楽が浮かんだ…映像が非常にウェットで常に淀んでいるのが何とも言えない雰囲気を醸し出している。
ペネロペ・クルスは演技とかよりもその美しさ、さらにそのクールな表情の掴みにくさがこの作品に合っているし、ベン・キングスレーの心の滲ませ方はさすがで、親友役のデニス・ホッパーの演技は秀逸。彼がこの作品の色を非常に際だたせている。

若い男女にはこのストーリー展開は、理解するのに相当時間を要するかもしれない。できればエイジングを感じ始めた大人の男女に観て欲しい作品。


「エレジー」公式サイト